お待たせしました! HWJによる福藤豊選手独占インタビューの模様をお知らせいたします。
インタビューをお願いしたのは、8月15日。8月11日に福藤選手が帰国し12日にスポーツ紙による一斉報道がありました。そして土日を挟んでの月曜日だったこの日、コクド合宿所の電話は鳴り止むことがないほどの大反響。取材問い合わせは実に40件以上に昇り、18日の記者会見には取材陣総勢70人が押し掛けたそうです。こんなにホッケー関係でメディア関係者を目撃したのは、NHL日本開幕戦以来の出来事ではないでしょうか? 会見後も福藤選手は、練習の合間を縫ってインタビューに応じていました。とにかくぎっしりのスケジュール。ひと通り取材を済ませて故郷・釧路に帰省するまでは、なかなか気の休まる時間はないように思えます。東伏見には入れ替わり立ち替わり、メディア関係者がやってくるという感じです。しかし当の福藤選手「別に気にならないです。こういうの嫌いじゃないですから」と、常に真摯に対応しておりました。 ちなみに気になる福藤選手の契約内容ですが、契約期間は2年。NHLなら年俸45万ドル、AHLで年俸3万5000ドル。ともにリーグ最低年俸です。またECHLでプレーした場合はAHLと同額年俸を得ることになりますが、ECHLではサラリーキャップがあるのでECHLチームで支給出来る額を支払い後で、差額をAHLチームが支払うという形になるそうです。NHL、AHLと2つのレベルにまたがってプレーした際には、日割り計算で給料がはじき出されます。 2年契約は、労使協定に則っての期間。通常NHLルーキーが得る最初の契約(エントリーレベルコントラクト)は3年契約ですが、これはジュニア卒業直後の選手にあてはまります。22歳の福藤選手にはそれより1年短い2年契約という期間が指定されており、年長の選手を出来るだけ早くFAにするという意図がそこには窺えます。また昨季1シーズンを北米でプレーした福藤選手には、キングズ側からQO(クオリファイイングオファー:制約つきFA(RFA)となった選手の交渉権留保のための最低ベースアップ額提示。NHLニュースを毎日フォローされているみなさんにはもうお馴染みの用語ですね)が来ていたため、この1年契約QOを受け入れ今季頑張り、翌年FAになる前に大幅年俸アップを狙うという手も代理人は模索したそうです。QO受け入れ期限は8月15日と迫っていましたが、実際にキングズ側はそのQOよりも有利な内容、つまり2年契約を福藤選手に提示してくれました。福藤選手にとって、金額は問題ではなく、それより欲しかったのはプレー機会。契約期限は8月30日とまだ先でしたが、未契約で日本には帰りたくなかったので、帰国前にサインを済ませたそうです。 ・・・と、状況説明はこれくらいにしてと。それでは、早速インタビューに行ってみましょう! HWJ:まずは契約した時の状況を詳しく教えて下さい。 福藤:契約書ですが、詳細は何枚かに書かれていたはずですが、サインするために手元に贈られてきた内容はたったの1枚でした。25日の朝にホテルで受け取りました。フェデックスで送られてきたのを、フロントの人が渡してくれたんです。最初は中味が何だか分からなかった。朝ご飯を食べにいったら、「あなたホッケープレーヤー?」とフロントの人に聞かれ、「そう」と答えると、「今、メールが届いてるから持ってくるね」と言われた。差出人がキングズからだったので「なにかなこれは」と思っていたら、「こういうオファーを送ります」という内容が・・・アシスタントGMケビン・ギルモアの名前での書かれていました。 その後はしばらく、ホテルの部屋に普通に置いておいたんです。ルームメート(Dリチャード・ペティオット)も同時期にサインしたけど、彼は全部代理人任せ。ルームメートには「これは何だ?」と聞かれましたよ。「こういうオファーが来たんだよ」と説明したら「そうなんだ、よかったね〜」と喜んでくれた。その後、8月9日午後3時頃にキングズのオフィス(@練習施設トヨタスポーツセンター)でサインしました。サインする前日には、代理人と電話で話して「日本に帰る前にサインしたい」と伝えました。1年契約の構想も出来ていたらしく、代理人からは1年か2年かどっち? と聞かれました。僕はキングズがちゃんと面倒を見てくれるのなら、2年がいいと伝えました。ルームメートにも相談しましたよ。「僕はお金はいいんだ。とにかくプレーしたいんだ」と伝えると「その考えはいいんじゃない?」と賛同してくれた。 キングズのオフィスは、宿泊先ホテルから徒歩5分の位置にあります。代理人が段取りを整えてくれて、「3時にオフィスに行くように」と言われた。サインしたのは、キングズPR担当者のオフィスです。サインですか? 自分の名前を書いただけ。英語です。ちょっと緊張して震えましたけど。まあ「やっとここまで来たな」という想いはありましたね。 (HWJ裏話:福藤選手、実は年俸額をともに2年分だと勘違いしていたのです。つまりAHLでプレーした場合の3万5000ドルという年俸が2年分だと思っていたそうで。「AHLだと住むところとかチームが負担してくれないんですよ。この金額だと辛いな〜」と、コクド関係者に漏らしていたそうです。その後1年分の年俸が3万5000ドルと知ると、ちょっとにんまり。しかしAHLは週給のECHLと違い、一度に年俸が支払われる(と福藤選手)そうなので、「一気に使っちゃったらどうしよう」と今度は別の心配もしていました) HWJ:周りの人たちの反応はどうでしたか? 福藤:友達の反響はすごかったですよ。みんなお祝いの電話やメールをくれたり・・・。意外だったのは、母親が興奮していたこと。「すごいねあんた!」って(笑)。そういうことを言う人じゃないのに、状況が分かったらしくて。 成田に大勢マスコミがいたのにはびっくりしました。その後記者会見を控えていたこともあって、広報の人が仕切ってくれた。なんかすごいっすよね。僕は話してもよかったのに間に人が入ったりして。予想外でした。僕の友達が来てくれていたので、僕が「おーい」と呼んだら、いきなりパシャパシャ、パシャパシャとシャッターを切られて・・・なんだこれって感じでした。 HWJ:イメチェン後のヘアスタイルの評判はどうですか? 福藤:よく「変わったね」って言われます。成田では、迎えに来てくれた大北さん(HWJ注:コクド・大北教彦アシスタントマネジャー)は、素で僕のことが分かんなかったようです。 日本に戻る前に一度髪の毛は切ったんです。色もちょっと黒くしました。日本に帰るのにあれじゃまずいなと思って(笑)。このヘアスタイルのせいで、アーノルド坊やというニックネームがつきました。 パーマをかけてからよく外国人に間違えられます。LAでも日本料理のレストランに日本人の知り合いと出かけた時、間違えられました。僕の知り合いには「お飲物は何にしますか?」と日本語で聞くのに、僕には「Would you like some drink?」って。はあ? って感じ(笑)。僕だけ英語なんですよ。「僕、日本人ですよ」って言いましたよ。 日本に帰って携帯電話を買いに行った時も、「携帯買うのに何が必要ですか?」と聞いたら「身分証明書、例えば運転免許や保険証とかパスポートですね」と言われた。「あ、パスポートでいいんですか?」と聞いたら、「お客様、日本のパスポートが必要になります」と言われた。ずっと日本語で喋ってるのに。大笑いしましたよ。 HWJ:昨年も参加した7月の若手育成キャンプでは、今年はどんな成果がありましたか? 福藤:ブラスト、マンス、ザバ、テイラーと、昨年参加したGKがまた集まったんですが、その中ならたぶん僕が一番伸びてると思えるんです。僕の場合、それまで経験が少なかった分、いろんなものを吸収できたということもあるけど、それでも自分が一番伸びたという自信があります。ブラストもうまくなっていました。ジュニアや大学に戻っていった選手と比べると、やはり環境で揉まれた分の違いがあります。 今回のキャンプは、自分もよく実力を発揮できたと思います。最後のエキシビションゲームはチケットがなくなるほど、満員でした。ベイカーズフィールドからもファンが数名応援が来てたんですよ。コナー・ジェイムズ、ルイ・トランブレイに僕と、昨季ベイカーズフィールドでプレーした選手が3人いましたからね。試合はゲーム半分に出場して0点に抑えました。10本くらいはシュートを受けたでしょうか? 昨年は3点取られてましたからね。 トレーニングはかなり追い込みました。おかげで身体はでかくなりました。特に腰と体幹ですね。昔のスーツとかもう着れないので、今日作ってきました。ズボンもTシャツも、みんな入らないです。LがXLになりました。ウエストは細いんですが、肩とヒップが大きくなって。今は86kgあります。 今回のキャンプでは、かなり他の選手と仲良くなりました。よく晩ご飯を一緒に食べに行ったりしましたしね。ブラストですか? まだお腹がぶよぶよしていましたよ。あいつ、ジャンクフードが大好きなんです。炭酸飲料しか飲まないし。水にすれば痩せるんですけどね(笑)。噛みタバコとかもやるんですよ。まあ僕も、チョコレートとかは止められませんけど。ご飯の後とかはついつい手がでてしまうんです。あれがないと食べた気になりません。でもちゃんと動いてるんで、オフシーズンに気を付ければ大丈夫です。アイスクリームもやばいですね(笑)。 HWJ:さて、9月にはまたアメリカに戻り、いよいよポジション争いへの戦いが始まりますね。その自信のほどは? アメリカには9月3日に出発を予定しています。ルーキートーナメント(@サンノゼ、9月7日開始)の前に、一度LAに入って練習することになると思います。去年のルーキートーナメントでは、vsコヨーテズと、最後の決勝vsアナハイムに出場しました。コヨーテズは0点に抑えたんですが、決勝では3点取られた。今年はもっといいプレーをしたいです。 HWJ:今季のNHLといえば、GKに関して様々なルール改正がありますよね? 特に防具のサイズ規制は、GKにとって心配材料だと思うのですが、そのあたりはいかがですか? 福藤:いつ届くんでしょうね? すでに発注してあるので、ルーキートーナメントまでに間に合えばいいんですが。僕はこれまでもあまり大きいパッドを使っていないからまだいいですが、ケガをしそうで危ないですよね。サイズがあるGKだと、膝とかにパックが当たると大変なことになる。パッドが違うと守っていても全然感覚が違うんです。今まで取れていたシュートでも、パッドが違うと入ってしまったりすることはありますから・・・ HWJ:日本人初のNHL契約選手ということについては? 福藤:全然意識していないです。キムタクが最初にやってるんで(笑)。な〜んて、今度TVのインタビューで言ってみたりして。「木村拓哉さんの後を追えるってことは・・・」とか語ろうかな?(笑)。「難しい」と言われていたことを達成できたのはうれしいですけど、日本人初だからうれしいというのはないですね。 HWJ:初のNHL契約とはいえ、すでに北米でも2シーズンを経験しましたね。北米がかなり居心地がよくなってきたんじゃないですか? 福藤:最初は「お客さん」でしたからね。でも、そこから自分のプレーで周りを認めさせていくことには、喜びというか、自分にしか分からないものがあります。気持ちいいですよ。それまで全然相手にしてくれなかったチームメートがいきなり寄ってきたり。やっぱり実力の世界だなと思います。 グレッグ・ヒューイット(2002−03年ECHLシンシナティ留学時代の1番手GK)は、今UHLで活躍して稼いでるようですが、僕がこんなになってびっくりしてるんじゃないでしょうか。あの時は、ホントいろいろ教えてもらってましたからね。 マルコム・キャメロン(ECHLシンシナティ留学時代のヘッドコーチ、現在ECHLロングビーチのヘッドコーチ)には、先日LAの若手育成キャンプの時に会いました。LAにコーチの勉強で来ていたようです。その時、彼が僕のECHLでのデビュー戦(2003年2月7日@ジョンズタウン)の話を彼がしてきたんです。「おい、覚えてるか?」って。2点ビハインドから追いついて、PS戦で勝利した試合の経緯を、彼が事細かに記憶していたのには、感激しました。彼は僕のことを結構買ってくれていたんです。シンシナティでは、プレーオフにも僕に本気で残ってくれと言ってくれたんですよ。そして「あの時とは身体つきが全然違うな」って、声をかけてくれました。 マーティ・レイモンド(ECHLベイカーズフィールドのヘッドコーチ)も、LAに来ていたんですよ。彼はシーズン中は近寄り難い雰囲気だったんです。でもLAで会った時にはすごくやさしくしてくれた。まずは「なんだ、お前その髪は?」と一発目で言われた。次に「なんでそんなに日焼けしてんだ? 毎日ビーチでも行ってるんだろ?」と冷やかされました。 HWJ:日焼けといえば、今年の若手育成キャンプでも、ビーチバレーはしたんですか? 福藤:やりましたよ。僕たちのグループは準優勝でした。面白かった。かなりエンジョイしました。 キャンプでの自分は、昨年とはかなり違うと感じます。まずは緊張しなくなった。英語が分かるようになってきたので、「話しかけられたらどうしよう」という気負いがなくなりました。 昨年は「お客さん」という扱いを受けてた気がするんです。でも今回はちゃんとチームの一員として、周りの選手にもコーチにも受け入れられていたと実感しました。そこまで行くと、今度は本当にいいプレーをしないといけない。ファンにも納得してもらえるプレーをしないといけないですしね。 マイナーリーグでも、1年間ちゃんとやっていれば見る目は変わるもんだなと思いました。昨季マンチェスターでプレーしていたヤツらから「お前のスタッツを見るのが楽しみだったぞ」「お前、乱闘みたいなのやったんだろ」と言われたり。 HWJ:その乱闘になりかかったシーン(2月26日vsサンディエゴ戦)を説明してもらえますか? 福藤:荒れた試合でした。5人対5人で氷上でぐちゃぐちゃになった時に、ウチの反則で相手GK(マテュー・シュイナール)が上がってきたんです。で、こっちを見ながら、グラブを落とす気満々だった。首の仕草で誘いをかけてきたんですよ。2人してセンターサークルに出て行ったところで、レフェリーが間に入って止められました。 あっちはやる気満々だったので、やらなきゃいけない状況でした。止められなかったら乱闘していたと思います。だって、ナメられたくないじゃないですか。相手GKはすっごくデカかったんですよ、首とかも太くって。後から聞いたらGKの中でも有名なファイターだったらしい。それを聞いて正直、ちょっとほっとしましたけどね。 HWJ:今回のNHL契約で、多くの人たちが開幕に福藤選手がNHL入りすることを期待しているようですが、これにプレッシャーは感じますか? 福藤:そのプレッシャーは覚悟していました。すぐにNHLの試合に出ることを期待している人たちは多いようですが、あまり気にしてません。僕自身、それは現実的じゃないと分かってるし。もちろん開幕ロースターに残りたいという気持ちは持っていますけどね。最終的に目指すところはそこだけど、まだまだ現実的には先だと。 HWJ:それでは、この契約期間の2年が終わった時、自分が在るべき場所とは? 福藤:AHLのメインか、NHLのバックアップは務めていたいです。ECHLでやっていたら、それ以上の契約はない。下の選手たちがどんどん出て来ますからね。そうなってくると、現在の若手キャンプ組では僕が一番年長なので、キツくなって来ると思います。 今回のキャンプでは、技術面はもちろん、NHLに行きたいという気持ちを強く持ってることを分かってもらいたいです。次はAHL、その先にNHLが待っている。時間がかかっても必ずNHLのメインGKを獲りたいです。 HWJ:ありがとうございました。 ご感想はHWJ掲示板まで
by hockeyworldjapan
| 2005-08-21 08:53
| Fuku-chan report
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