NHLとスポーツ弱者スパイラル

う〜ん、空しい。空しいです。

なにがそんなに空しいかというと、TSNで「いつまでに妥結すれば今季はまだ成立するか?」という議論をしてたのです。

グレン・ヒーリー:「2月に食い込んでも大丈夫。トレーニングキャンプなんて不要だ。どうせ選手たちはもうよそでプレーしてるじゃないか」
エリック・デュハチェク:「現実問題2月1日頃までに妥結すれば、1週間のトレーニングキャンプ期間を経て開幕に繋げることは可能」

ヒーリーの「トレーニングキャンプは不要。どうせ選手たちは・・・」発言に対して突っ込みたい欲求を抑えつつ、話を続けることにします。

「今季成立のための妥結期限」。これは、仮に妥結しそうな雰囲気が高まってる状況下であれば、議論としてひたすら盛り上がるお題でしょうね。しかし、いかんせん、現状は暗すぎる。全く両陣営の話し合いが持たれる様相のない今となっては、所詮虚空を切るよな議論に終わってしまう。

デュハチェク氏は冷静に続けます。
「ただし、それまでに交渉が妥結するとは思えません」

これを言い終えたデュハチェク氏、空しかっただろうな。

10年前に、NHL労使交渉が妥結したのが95年1月11日。すでにこの1月11日という指標日を踏み越えようとする今季、「まだ間に合う。40試合スケジュールで行ける」という記事を書く記者さん(トロントサン紙の記事を読む)もありました。

それは筋書きでは確かに可能です。でもそれはあくまで筋書き上の話。書いた本人も、たとえ交渉が再開したとしても、両陣営が話す具体的内容なんてもはや皆無なのは、おそらく分かってて書いてるはずです。でもこの記事によって「今すぐ交渉の席につけ!」と、両陣営をけしかけたい・・・などという願望が、そこには潜んでいたのだと察します。

もちろん今季開幕への希望への糸口が、全くないわけではありません。
内情を暴くまでもなく、NHLが仕切るオーナー側だって、PAがかろうじてまとめようとしてる選手側だって、かなりの分裂の様相を示してるのです。

ただし、それを妨げようとするのが両陣営の長たる人物たち。オーナー側が不平を公に示せば、NHLから25万ドルという膨大な制裁金が課せられる。PAにたてつけば、背信行為としてその選手(言わずと知れたロブ・レイの一件です)はPAから一方的に引退選手扱いとされ、ロックアウト中の給付金の対象外とされてしまうなんてこともありました。こうなるとどっちも包囲網ずくめの恐怖政治です。しかも、どっちのリーダーたちも、寒くなった自分のクビを守るために依怙地になっている。これでは発展的な交渉は望めません。

それでもまだ今季開催が実現するとすれば、以下のシナリオのみで可能でしょう。

オーナー側&選手側がともにクーデターを企てて、両陣営ボスを失脚に追い込む。本当の意味での両陣営の統一見解を早急に練り直し、「Take it or leave it」じゃなくって、お互いの主張を取捨選択し譲歩の必要があれば譲歩するという、本当の意味でのネゴシエーションに入る。そして奇跡的に両陣営は妥結に至る。

ただしこの「クーデター」案は、現実離れした戯言であり、戦略的には飛び道具。実際権力者が君臨しているうちには、それに阿るのが人間の性というやつ。よってこれが天文学的レベルで不可能に近いことは分かっていますし、私はそれを両陣営にけしかけるつもりは毛頭ないし、そんな力など私ごときにはありません。ほぼ妄想の世界です。それを承知で書いてますので、ツッコミ無用ということでよろしく。敢えて今季可能性があるとすればそれしかない、それほど無理めな状況だということです。

ただ先程のTSNの議論よろしく、ついついそういったあり得もしない方向に考えを馳せてしまう。そんな自分が一番空しい。

もちろん、別に今季無理矢理シーズンを開幕する必要はないという声もあります。
両陣営とも団結に綻びが見えているのだから、それが自然崩壊するのを待てばいいと。94−95年の時もそういう糸口からの妥結でしたし。

なので私も以前はこう思ってたのです。
「どうせ揉めるのなら、1シーズン無駄にする覚悟でとことんやれ!」と。
途中開幕して、レギュラーシーズン40試合程度でお茶を濁されるのも、ちょっとツライかも・・・とも思っていましたから。

でもね、それは、ここまでひどい交渉展開になるとは予測してなかった頃の話。
このまま無為に過ごす時間が増えれば、中止になるのは今季1シーズンでは済まなくなる可能性も大いにあり得る今、そんな悠長なことはもう言ってられません。

さらにUSAトゥデイの記事が、警鐘を鳴らします。

「今季NHLシーズンが労使紛争のため全面中止になった場合、残念に思いますか?」という問いに対し、50%のスポーツファンが「全く残念に思わない」と回答したとか。「とても残念(12%)」、「ある程度残念(20%)」、と答えた割合を大きく上回っています。

ある程度予期していたものの、それでも改めて考えさせられる結果でもありました。
半数の人が「全く残念に思わない」。「あまり残念に思わない(17%)」と含むと、3分の2以上の人が「NHL? 別にどうだっていい」と思ってるわけです。

90年代には「北米スポーツの中で最も高い成長度を誇るスポーツ」として、もてはやされたNHL。当時、将来はバラ色に見えたものです。アメリカの景気回復に後押しされて、チーム数の増加に、五輪へのNHL選手参戦、新アリーナの建設ラッシュに、米TVネットワークとの放映権契約などなど。「日本ではなかなかホッケー人気が向上しなくって・・・」などとアメリカで話をすれば、「そりゃあマーケティング手法が間違ってるしかないでしょう」と、ホッケーをろくに知らなそうな人にまで指摘を受けたものでした。

そのNHLが近年失速し、過去に積み上げた財産を蕩尽してしまっている。原因は、年俸高騰と逼迫したチーム経営によるチケット価格の高騰、他スポーツとの厳しい競合、試合の低得点化による一般スポーツファンへの魅力減退、ホッケー新興地域でのファン獲得に苦戦・・・などなど、挙げ出したらキリがありません。試合の熱戦ぶりがTVで伝わりにくく視聴率がとれないため、TV局側はその契約金や露出さえも控えてしまうという悪循環もあるでしょう。そして古参記者たちは、形だけ先走ってビッグビジネスに成り上がったNHLは、選手のメンタリティまで変えてしまった、とまで嘆く有様です。

ひとつ言っておきますが、私は「ホッケーは世界一魅力のあるスポーツ」と信じてやまない人間です。誰も好きなスポーツの恥部を、好んで自ら晒したりしたくない。でもそれを覆い隠して現実逃避するのはもっと罪深い。さらに言えば、現在の問題を正すには、過去の経緯を明らかにする必要もある。だからこうしてクドクドと書いてるわけで。

ゆえに、たとえ奇跡が起こり、近い将来に晴れて労使妥結の運びになったとしても、NHLにとっては課題は山積です。以前から打撃を受けていたNHLのマーケティング的価値なのですから、ロックアウトが長引けば長引くほど、その価値はさらに目減りして行くだけ。ダウンした価値を再び高めるのは、容易な仕事ではないでしょう。

NHL労使交渉の実態。それは、トンネルの向こうが見えないという暗黒状態を呈しているだけでなく、そのスポーツ自体をも確実にスポーツ弱者スパイラルに突き落としているのです。

ちなみにUSAトゥデイのこの記事を書いた記者さんは、ホッケーが専門の方。厳しい内容の調査結果を掲載することによって、NHL界全体に鞭打つ決意で書いてるはずです。そのメッセージが、リーグにも選手にも届いていればいいのですが。

あ、繰り返しになりますが、私の妄想案は、他の記者さんたちとはそもそもの目的が違いますので、ひとつの読み物として楽しんでいただければと。くれぐれも取り扱いにご注意ください。
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by hockeyworldjapan | 2005-01-12 19:25 | CBA


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