国立代々木競技場には、それなりに思い入れはあります。
83年に開催された世界選手権には、ほとんど毎日足繁く通いました。日本リーグや全日本選手権での盛り上がりも知ってるし、NHL開幕戦でのあの昂揚感はいまでもはっきりと覚えています。 でも3年ぶりにホッケーの試合の取材に来てみて、真っ先に感じたのは現在の日本における閉塞感ってやつ。はっきり言います。場内は暗くて寒い。また観客席が遠浅状に広がってるせいで、試合が非常に観づらい。背番号はよく分からないし、選手の顔が完全に逆光になってしまって顔でも識別しずらい。併設された売店だって小さい。 代々木との最初の出会いからはや20年以上が経過した今、私はその間に多くの最新設備を海外で目にしてきました。最新のアリーナといえば、可動式の座席で競技間の早変わりなんてお手のもの。アリーナ上部にはコンピュータグラフィックを駆使したスコアボードが下がり、スイート席から通じるスタイリッシュなレストランは、お洒落人間の社交場と化す。アリーナによっては、無線LANとかも完備してたりする。 そんな知恵をつけた後、改めて代々木の現状を見ると、寂しい気持ちを通り越して諦めモードになったりもするのです。 しかし、かくいう私も代々木と同じ60年代生まれ。 いわば「糟糠の妻」状態の代々木を、「過去の遺物」呼ばわりするのは、まるで自分がそう呼ばれてるような気がして非常に辛いのです。 国立代々木競技場は、今シーズンをもって冬季アイススケート場としての営業を終了することを決定。ゆえに、日本のアイスホッケーの数々の舞台を提供してきたこのアリーナでの、今後のアイスホッケーの試合の開催が非常に厳しくなってしまいました。1月15、16日の両日、代々木で開催された集結シリーズが最後になってしまうのかも。試合の熱戦をよそに、これまでの代々木で経験してきた思い出への感傷と、日本のアイスホッケーにおける危機感を一段と強めた関係者やファンの方も多かったのではないでしょうか? そんな私なんかより、ずっとずっと辛い思いをされているのが、君塚晋氏(日本アイスホッケー連盟常務理事・事業本部長)。古くからこの代々木で氷作りや大会運営を支えて来た君塚氏とのインタビューを、こちらに掲載したいと思います。 HWJ:今回の競技場側の決定はどう受け止められましたか? 君塚氏:代々木は僕が育った場所。ここで氷作りを覚えたんです。思い入れが強いだけに、ここがもう営業しなくなるのは寂しいです。イベントやコンサートでの利用もいいが、スポーツの拠点としても今後もっと使って欲しい。収益面だけを見るのではなく、こうしてホッケーでも盛り上がる大会があるのだから、今後も残して欲しい。夜中寝ないで氷を作った頃のことを考えると、なおさらそう思います。 世界選手権(’77年)の時はここが満員になったんです。階段や通路のところまで人が埋まっってました。東京からこうした大きなリンクが消えてしまうのは、アイスホッケーにとって実に大きなマイナスです。 その知らせを聞いた後、私は何度かお願いに出向いたのですが、私と(競技場側)場長さんのやりとりのレベルでは、それ以上話が進まない。上から「採算が合わない」と言われたら辞めるしかないの一点張りです。 昨日(1月15日)、この話題が(日ア連)常任理事会で出ました。このまま黙って引き下がるわけにはいきません。世界選手権(ディビジョン1)をここに誘致すべく、日ア連で動こうじゃないかと、富田会長(日ア連)もおっしゃってくれた。ここでもう一度大きな大会を開催し、その存在が認知されるようにするのも連盟の仕事です。可能かどうかは別として、我々が努力しないとダメです。 HWJ:代々木でのアイススケート場営業終了の知らせはいつご存じでしたか? その決定に至る具体的問題点とは? 君塚氏:冬季リンク営業を中止すると聞かされたのは、1年ほど前でした。現在代々木の経営は、文部科学省から独立行政法人として切り離されてるのです。つまり、ここだけで収益を上げないと成り立たない。国からの補助金はありませんから、事業を見直す必要があったそうです。実際のリンクの一般営業は、1日に10人程度しか入らない。当然維持費も赤字です。そこで「もうリンクの一般営業はやらない。イベント主催者側が経費を負担するのであれば、リンクの設営はもちろんしていただいて構いませんし、会場はお貸します」というスタンスを打ち出してきたのです。 これについては「もう決定事項です」というのが競技場の見解でした。つまり、大会を開催したければ、氷やフェンスの設営は自前で全部やれとということです。ただ2日間の大会を実施するのに、現在の代々木のシステムだと氷などの準備期間が2週間かかる。さらに大会終了後、撤収するのに3、4日はかかります。よって2日間の試合のために、数週間会場を押さえる費用も発生します。NHLチームのホームアリーナなどは、一晩あればリンクから他イベント設営へと早変わりができるのですけどね。 自前で設営まで負担するとなると、世界選手権レベルの試合を誘致しないと代々木での開催は厳しいです。アリーナ賃料以外にも、入場料の数%を競技場側に支払うことになりますし、設営のための労働力に対しても報酬が発生します。観客席下の倉庫からフェンスなどの資材を台車で全部運ぶ作業だけでも、40〜50人の人手が必要。いったんフェンスが固定できればその半分の人数で済みますが、フェンスのボルト締めなどは全て手作業なので、非常に時間がかかる作業なんです。 HWJ:先程NHLのホームアリーナの話が出ましたが、施設としての代々木の実力についてはどうお考えですか? 君塚氏:まず代々木でのリンク設営は、非常に多くの経費がかかるという問題があります。新横浜や東伏見のように、コンクリートの上にアイスマットが敷いてあるのではなく、リンクの下が空洞なんです。その空洞の上にまず板を張って、その上に冷媒用パイプを通しているため、どうしても下部分から暖まってしまう。なので他リンクと同じ具合に冷やしても、氷の固さが異なってしまうんです。しかし冷やしすぎると、下が何もないので重みで氷にひびが入って割れてしまう。ゆえに氷を維持するのにも大変なリンクです。冷凍機も東京五輪当時からの備え付けのものを使用している状況です。 ファンに対し、観てて楽しいものを提供するには、観戦する環境をよくしていかないとダメです。観客席にしても傾斜をつけて見やすくするよう改修できればいいのですが、建築家(丹下健三氏:国立代々木競技場他、東京都庁の設計者として世界的に知られる)の承認がないと、手直しできないと言われるのです。また公式の水泳大会を開催する予定がないのなら、空洞の部分を埋める工事をすればいいのですが、経費削減が叫ばれる昨今はそんな支出はなかなか許可されません。 ただ、できないと諦めてしまってはダメなんです。その現状を変えないといけませんし、ホッケーの大会を開催しないことには、リンクとしての存在意味もアピールできないし、収益も上がらない。今年の国体東京開催(代々木、東伏見、東大和と3カ所で同時開催)で、今年は全国から代々木に人が集まって来ますから、そこで多くの人に代々木の必要性を分かってもらいたいとも思っています。東京での冬季国体は初のことですし、大きな意味があると期待しています。 その他、ひとつの糸口として考えられるのは、文部科学省で始まったスポーツくじの収益金で「スポーツの拠点作り」という事業。各スポーツにとって「甲子園」的存在になる拠点をつくろうという動きで、そういう資金を代々木改修につぎ込むことは可能なはずなのです。しかし代々木の独立法人側がその気にならない。スポーツ団体として我々連盟側からプッシュはしていますが、東京都などからの支援がないと厳しいです。 HWJ:今後代々木での開催が断念せざるを得ない場合、代案として大きな会場はどこが考えられるのでしょうか? また一連のコクド・西武鉄道グループの不祥事から、同グループ下のリンクの営業存続も懸念されていますが・・・ 君塚氏:他の競技場でもリンク設営は可能です。例えば東京体育館でも理論的には可能ですが、問題は冷凍機やフェンスを他所から持ち込むという部分。その点代々木にはすでに備え付けのものがあるし、その機材も長期間使用しないと傷みが激しくなるので、年に1度は使ってやらないといけないのです。さいたまスーパーアリーナ(2000年NHL日本開幕戦開催)については、構造上の問題があるため、再びアイスリンクを設営するのは非常に難しいと考えられます。 都内のリンク減少については、日ア連、東京都アイスホッケー連盟が東京都とタイアップし、自治体所有の多目的アリーナを作って欲しいと思います。また都内ではないですが、現在千葉市で新リンクを建設中です。清掃工場の余熱を利用できるので維持費は軽減できるのですが、観客席がないため試合開催ができないという難点があります。成田からも近い千葉市ですから、外国から招待したチームはすぐ寄れるという立地の良さもあるわけですから、大きなものを建設して欲しかったのですが。 ただ我々の過去の反省として、これまで連盟側が「もっと大きなものを」という考えが最初からなさすぎたと思うのです。堤義明氏(前日本アイスホッケー連盟会長)の下、連盟関係者は「堤氏がいるから、なんとかしてくれるはず」という依頼心が強すぎたlこともありました。今後はもっと我々が何事も積極的に関与していかなればと自覚し、そう動いていくべきなのです。 (アジアリーグ公式HPでは、国立代々木競技場アイススケート場史についての記事が掲載されています。ぜひこちらも合わせてご覧下さい。)
by hockeyworldjapan
| 2005-01-17 12:21
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