ホームアドバンテージには、いろんな要素があります。
まずは地元ファンの前でプレーできるという心理的要素。次に本拠地のリンクでプレーできるということで、勝手知ったる我が家でプレーするホームチームがやりやすいことは言うまでもない。ルールでリンクの寸法はおおよそ決められているものの、リンクによってはコーナーのRの具合であるとか、ゴール裏のボードの跳ね返りであるとか、はたまたサイドのボードの高さなど、かなり違いがあります。 また、氷の質も、リンクによって大きく異なります。例えば今日の東京地方の最高温度は15度。NHLクラスのアリーナとは異なり、外気が遮断しきれない日本のリンクの多くでは、外の気温や湿度がアップすると氷の質低下にすぐ繋がってしまう。特に北海道の速いリンクから本州の遅いリンクにやってきた時、選手たちは一様に「脚に来た」と口にするわけです。 NHLのプレーオフなどでは、逆にホームがアドバンテージでなくなるケースも往々にして見受けられます。家族や友人から試合のチケットを頼まれたりと、選手たちがホームならではの喧噪に巻き込まれるのは、よくある話です。NHLチームによってはホームシリーズであってもホテルに選手たちを全員宿泊させ、そうした喧噪から隔離させようと策を練ったり。あるいは、ホームでの期待があまりにも高すぎるため、それが選手たちにとって心理的プレッシャーとなってしまうこともあります。 さらに、試合の細部へと言及すると、ホームアドバンテージ=最終マッチアップ権を意味します。つまり、相手チームが出して来たラインに応じて、氷上に送り込む選手をチェンジすることが可能であり、それがコーチの腕の見せ所になるというわけです。 前置きが長くなってしまいましたが、今日のアジアリーグ・プレーオフ決勝第4戦は、まさにそうしたホームアドバンテージを、コクドがよく掴んでの勝利だったと思います。 試合開始直後、5オン3のPKと自らピンチを招いて早々に失点したコクド。その後もクレインズは、コクドのニュートラルゾーンのギャップが開き気味になったところをえぐるようにパスを通したり、スピーディにパックを持ち込んだりと、押し気味に試合を進めていました。 しかし、そこからがコクドの見せ場でありました。プラントのラインにはパーピックのライン、ミタニのラインには佐々木のラインと、まずはきっちりマッチアップ。そしてセンターを基軸に、出場させるラインを小刻みに変えて来たのです。状況に応じて選手を厳選し、緻密に組み替えられるライン。大事なフェイスオフの場面では、ウイングに代わってセンターの藤田を送り込み、フェイスオフでチェンジを命じられた時にもセンター2人で備えるような「スコッティ・ボウマン方式」の戦術も冴え渡っていました。 レギュラーシーズンを通して、ファーストライン、セカンドラインをある程度固定してきたクレインズに対し、ケガ人が出たこともあって絶えずライン構成の変更を迫られてきたコクドはある意味好対照です。どちらがいいとは一概には言えないと思います。ラインを固定すればコンピネーションに深みが出るでしょうし、ライン構成が日替わり状態だと選手はやりにくさを感じることもあるでしょう。しかし今日のコクドは、そうした経験が柔軟性という形で生きたようです。あれだけ、複雑にライン構成が入れ替わると選手が混乱し、メンバーオーバーのペナルティを起こすケースなど、NHLでもちょくちょく観受けられるのですが、この日のコクドに限ってそういうことはなし。コクドのチームスタッフ、選手たちの試合巧者ぶりが存分に発揮された場面でした。 そして、コクドは第1ピリオド4連続ゴールであっさり逆転します。 1点目はブルーラインを越えたところで、今がゆっくり状況を見極めて川口に横パス。二瓶次郎が守るゴールの空いたスペースを、川口がハーフスピードで流し込んだシュートが決まって、1−1の同点。 コクド2点目は、クレインズが攻撃していたところからのカウンター。コクド側ブルーラインからパックがこぼれるやいなや、増子、佐々木が素晴らしい飛び出しで、あっという間に2オン1。増子から佐々木へとパックが渡ってゴールが決まり、2−1と逆転。 その後もコクドの勢いは止まらず。ゴール前で外崎が倒れながらシュート、そのリバウンドを藤田が決めて3−1。さらに外崎がセミブレイクアウェイから、ゴール前左に切りんでのゴールで4−1。第1ピリオドにして、ほぼ試合を決めてしまったのです。 ただし、今季のクレインズはこれでしょげ返るようなチームでは決してない。第2ピリオド立ち上がり5オン3を含むPKを守りきると、佐藤博史のゴールで2−4に。 その後もクレインズは、DF選手が果敢にピンチインするプレーの連続で、コクド陣内を脅かしていました。しかしコクドもこのピリオド後半にパーピックがゴールを決め、再びリードは3点差。このパーピックのゴールはいろんな意味で凄かった。ユールがひとり持ち込んで放ったシュートのリバウンドがこぼれ、リムをつたって転がったところを、パーピックが押さえるやいなや振り向きざまに放ったシュートは、二瓶次郎が守るゴールのトップコーナーに突き刺さっていた。東伏見に詰めかけたファンから大きなどよめきが起こったのは、言うまでもありません。 しかし、3点のビハインドを背負ったクレインズは、第3ピリオドに意地を見せました。西脇がドライブして放ったシュートを、コクドGK菊地がブロッカーでセーブ。そのリバウンドを拾った伊藤雅俊が角度の悪いところから放ったシュートを菊地が止めきれずに、ゴールイン。さらにその後もゴール裏の桑原から、ゴール前に詰めたプラントへと繋ぎ、クレインズがあっという間に1点差に詰め寄りました。 試合終盤はコクドのペナルティあり、6人攻撃ありで、大攻勢をかけたクレインズでしたが、最後はパーピックのエンプティネットゴールで万事休す。コクドが6−4で第4戦を勝利し、これでシリーズは2勝2敗のタイに。明日(3月26日)東伏見17時開始の第5戦での決着と持ち越されたわけです。 第5戦もコクドにホームアドバンテージがあるわけで、コクドとしては自分たちの底力を見せる舞台が整ったという感じ。一方のクレインズは、チャレンジャーであるはずの立場が、やや横綱相撲に走ったきらいもありました。しかし試合後半では激しい追い上げを見せてくれましたし、第5戦ではまた違ったクレインズを出してくるはずだと期待しております。 最初にホームアドバンテージの話をしてしまいましたが、東伏見のリンクの遅さを考慮した上でも、脚の動きはクレインズの方がまだ余裕があるように窺えました。しかしコクドも主力はフル回転、ケガを押してプレーする選手もいたりと苦しい中で、外崎や佐々木、小原、神野といったメンバーがいい働きをしていたし、ベテラン主力FWたちもDFをカバーするために素晴らしい守りを見せていた。 「ウチは今季層が薄くなったとか言われていましたが、FW12人、DF8人を見てみても、一番選手が揃っているのはウチだと自負しているんです。今日も4つめまでちゃんと回せれば勝てると思っていました。外崎のゴールは大きいです。彼は今季クレインズ戦ではいい働きをしてるんです。ゴールに向かう気持ちがあるし、あとはチャンスを決めるだけだったところが、今ちゃんと決めてくれている。なのでチームにとってはいいプラスになっています(若林クリスコーチ)」 クレインズの方は、1−4となった場面で点を取りにいかねばならなくなって終始前掛かりな感じでプレーしていたため、この日の守りについては評価するのは妥当ではないかも。なので両チームの守りを比較対照するつもりは金輪際ないけれど、そうしたファクターを差し引いてもコクドのFWはよく守りに入っていたと思います。クレインズは、第2ピリオドにDF中島谷が故障退場。心配されましたが「大事をとっただけ。大丈夫です(中島谷)」とのことで、第5戦の出場は問題なさそうでした。 それにしても、両チームともトランジションの速いこと、速いこと。ファイナルなのですから当たり前といえば当たり前なのですが、試合としては本当に見応えのある内容でした。首都圏在住の皆様、明日(あ、もう今日ですが)は是非是非、東伏見にお運びください!
by hockeyworldjapan
| 2006-03-26 00:59
| アジアリーグ
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