2005年 01月 06日 ( 1 )

世界ジュニア選手権雑感

世界ジュニア選手権、結局カナダがぶっちぎりで優勝でしたね。 

私はTVでその模様を見ていたわけでもないので、実際の試合模様については、特にコメントするつもりはありません。とはいえ、大会の流れは各種報道を通してちゃんとチェックはしておりました都合上、気になった点などをいくつか挙げてみたいと思います。

前にも「TSNの世界ジュニア視聴率沸騰中」というニュースについて書きましたけど、NHLロックアウトという大きな背景が手伝い、今大会へのカナダでの注目度は異常に高かったと思います。

TV放送の場合、ホッケーに飢えてる視聴者を惹き付けるためには、試合を放映するだけで十分だったのかも知れません。ただ、NHL不在ゆえに報道対象を失っているブン屋さんたちの煽り報道ってどうよ? と疑問に感じております。

まあ、ブン屋さんたちの事情はよく分かります。新聞を売るためには多少ショッキングな見出しは必要でしょうし、NHLロックアウトのせいで売れてない新聞を「世界ジュニア景気で売ってやる〜」みたいな気概もあるのでしょう。

このカナディアン・メディアの標的となったのは、ロシア人選手アレクサンダー・オベチキン。2004年ドラフト全体1位でワシントン・キャピタルズに指名を受け、このカナダとの決勝に至るまでは大会のスコアリングリーダーを争っていました。

オベチキンについては、以前から何度か私も書いてきました。ロシア人としてはというとちょっと語弊がありますが、実に率直で明るく、好奇心旺盛な面白い取材対象です。2004年スタンレーカップファイナル時に両チームの練習を見学した際には、ガラスボードに密着するかぶりつき状態で食い入るように見つめ、「写ルンです」のシャッターを切りまくった・・・という微笑ましいエピソードの持ち主でした。

そのオベチキン、この大会には金色のネックレスをジャラジャラきらめかせて登場し、各ピリオド開始前には「相手ゴール前にラッシュしてシュート! 決まったっ!!!」のフリをするという儀式を繰り返していたそうです。

この儀式にいたく激怒していたのが、TSNコメンテイターの「ボビーマック」こと、ボブ・マッケンジー氏でした。

「アメリカはあのオベチキンの行動には黙っていたけど、カナダは黙っちゃいないぜ! 決勝であんな行為をしたら、アンスポーツマンライクコンダクトとして2分間のマイナーペナルティを課すべき」

オベチキンだけではありません。アメリカ・デトロイトの地元紙は、「(準決勝vsアメリカ戦で)ロシア代表は、終盤のエンプティネットゴールに大げさに喜んだり、ダイブはするわ、ケガのフリするわの悪態をついた」と伝え、開催地のノースダコタ州グランドフォークスのファンから顰蹙を買っていたことを示唆していました。

さらに決勝前には、オベチキンがカナダGKグラスについて「カナダのFWやDFはスゴいが、GKは無名」「カナダは神様じゃない」とコメントしてしまったのですから、ニュースに飢えてるカナディアンメディアが放っとくわけありません。オベチキンのコメントは、至極率直なのですが、ニュースに飢えてる輩の前では無防備過ぎました。ただ1997年以来優勝から遠ざかっているカナダの一部メディアは、オベチキンの存在を冷戦時代のごとくヒール役に仕立て上げることに成功したのです。

そして迎えた決勝。序盤からカナダの選手に厳しいチェックの集中砲火を浴びたオベチキンは右肩を負傷し、試合後半は氷に乗ることがなかったそうです。

驚いたのは、それについて「そ〜れ見たことか! 天罰下ったわい」と言いたげに書き立てている記者までいたこと。う〜ん、これはひどすぎる。トラッシュトーク合戦を演出するところまではまだ我慢できるにしても、です。

私は、カナダの正GKであるグラスの技量については、実際に彼の試合を観たわけではないので、議論はできません。しかしこのグラスというゴーリー、準決勝の相手チェコのキャプテン、ピーター・ヴラナからも「GKがカナダの弱点なのに、うまく攻められなかったのが敗因」となめられ、カナダの一部メディアからも「カナダはチーム全体で試合を支配し、GKグラスに厳しい攻めが及ぶことはほとんどなかった」と、力不足を指摘されていたことを、お伝えしておきましょう。

NHLがどんどん国際化するにあたり、かつて「NHLの不文律」と呼ばれていたものは、微妙に変化してきたように思えます。例えば今回ボビーマック氏が激怒したオベチキンの「儀式」の件だって、北米のホッケーファンにとってはそりゃムカつく行為に違いないとは思うのですが、ロシアでは「強者はそれをやっても許される」的なカルチャーがその裏にあるような気がするのです。

それで思い出したのが、2003年1月11日の一件です。フロリダ・パンサーズ@ワシントン・キャピタルズの一戦は、12ー2という大差でキャピタルズが勝利したのです。試合は第1ピリオド終了時で4−0、第2ピリオド終了時8−0と、キャピタルズの一方的な展開でした。

北米スポーツの常識からすると、ここまで点差が開いた試合では「相手をリスペクトして、終盤は手を緩める」のが常。要するに「とどめのとどめ」は刺さずに試合を流すべきというのが流儀なのです。ところが第3ピリオドに及んでも、ヤーガー、ボンドラといった主力級を出場させて攻め続けるキャピタルズ。これにパンサーズのオーナーが激怒して抗議したなんて一件がありました。(やられた当のパンサーズ・キーナンコーチは「別に構わない」と試合後コメントしてましたが)

ただ、ヤーガーやボンドラにしてみれば「そんな北米ホッケー不文律なんて知るかよ」ってところはあるでしょうし、彼らのバックグランドからすれば、むしろやる時は徹底的にやるでしょう。それは、過去に日本代表が、旧ソ連代表やチェコスロバキア代表との試合で、容赦なくコテンパンにやられたことでも実証されていると思います。

まあ、この件については、選手たちのイデオロギーを議論する前に、当時キャピタルズのコーチを務めていたブッチ・キャシディの人間性を非難すべきなのかも知れません。それはともかく、いまや「世界的なリーグ」を標榜するNHLでは、異なる生活文化背景から来る行動様式の違いによる誤解というのが、以前よりも増えて来たように思えるのです。もちろん、オベチキンも今後はNHLのスターとして活躍するであろう選手ですから、北米の土俵で今後やるつもりならその流儀を学ぶ必要はあるとは思うし、北米メディアの怖さを今のうちから知っといて損はないはずですが。

面白いのは、最近のイリヤ・コバルチャクの言動です。オベチキン同様というか、オベチキン以上にその派手なアクションが、相手チームの感情を逆撫ですることで知られるロシア人選手のコバルチャクではありますが、NHLロックアウト中の今季は故郷ロシアに戻ってプレー中です。さぞかし故郷ではやりたい放題かと思いきや、旧ソ連時代さながらの厳格なコーチの下で不振を極めており、「NHLが恋しい」とほざいているそうです。

冷戦時代を知らぬ世代のNHL加入は、イデオロギーの違いも越えた混沌さをリーグにもたらしてるのだわ〜と実感。ま、ロシア人うんぬんというよりは「コバルチャクはコバルチャク」ってことでしょうか。例えば、ハシェクのことを「典型的チェコ人」なんて位置付けしたら、多くのチェコ人から猛反駁食らいそうなのと同じってことでしょう、たぶん(あの人はチェコ人とゆーより宇宙人だもんね)。

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by hockeyworldjapan | 2005-01-06 16:32 | その他