2005年 02月 28日 ( 1 )

ダックス買収に思う

断片的ではあるけど、バブルから清浄化の兆しではあります。

93年にエクスパンションチームとして、NHLに加盟したアナハイム・マイティダックスが、ウォルト・ディズニー社から地元億万長者の手に売却されました。買収金額は、ダックスとそのファームチーム、練習リンク、チーム名「マイティダックス」によるグッズ販売権を加え、計7500万ドルと報じられています。

新オーナーとなるのは、オレンジ郡在住の億万長者、ヘンリー&スーザン・サムエリ夫妻。サムエリ氏は半導体関連会社で同地区アーバインを基盤とする「ブロードコム(昨年年商24億ドル)」の創業者のひとりであると同時に、2003年12月よりダックスの本拠地であるアローヘッドポンドの運営会社も所有しており、今後はNBAチームの招聘も目論んでいるとか。さらに地元オレンジ郡では、過去5年間で1億6000万ドルもの寄付実績があるという大物だそうです。買収価格7500万ドルの大部分はキャッシュでの支払い、さらにチーム負債の一部も負担するとのことですが、一時はディズニー社がダックス売却価格を1億5000万ドルに付けていたことから考えれば、お値打ち価格(なんて、ほざいてみたいですわ、全く)だった模様。2003年スタンレーカップ決勝のホームゲームは、全試合を観戦した経験で「感動した!」という夫妻は、同じくダックス買収に名乗りを挙げていたハワード・ボールドウイン氏(元NHLハートフォード、ピッツバーグのオーナー)の提示額を上回り、新オーナーの座についたのです。

一方、これまでダックスを所有していたディズニーですが、93年にダックスを創設し、96年には同アナハイム地区にMLBチームのアナハイム・エンジェルズを買収。しかしエンジェルズは2年前に既に手放しており、ダックスについても、ディズニー本体の株価低落を防ぐ手段として、過去6年間チーム売却の方針を打ち出していました。

そう考えると、ディズニーとしては、両チームを抱えるメリットを十分享受できずに手放したように思われるのですが、実は全くそうではない。アナハイムにおけるテーマパークの拡大(ディズニーランドの隣に新たにディズニーリゾートを建設)を控えたディズニーとしては、両チームのオーナーたることで、アナハイム市との関係を強めたかったという背景があったのです。

さらに忘れてならないのは(ホリエモンが先日TVでも言ってましたが)、ディズニーがABC、ESPNを傘下に保有するという背景。その恩恵により、かつてNHLは市場最高の米ネットワーク放映権料(5年6億ドル)を結ぶことにも成功していたのですが、ディズニー側としては新チャンネル「ESPNウエスト」立ち上げ後のコンテンツとして、エンジェルズ&ダックスに大きな期待を寄せていたという裏事情もあったのです。
しかし1998年、この新チャンネル立ち上げ計画は頓挫し、ディズニーがこの双子の赤字(=エンジェルズ&ダックス。ダックスはちなみに昨季は3100万ドルの赤字)を抱える正当性が消滅したのだとか。

そして翌99年、ディズニーは、エンジェルス、ダックスの両チームをついに売りに出したのです。当時、実際にサムエリ氏率いるブロードコムにも買収話を持ちかけていたそうです。当初ブロードコムは、ディズニーに双方向放送(TV放送中にチケットやグッズを買える)放映権の話を持ちかけたそうですが、ディズニー側から「チーム買収はどうか」と逆提示されたのだとか。また2002年、売却話がうまくいかないディズニーは、いま日本でも世間を賑わせているリーマンブラザーズに協力を仰ぎ、いずれかのチーム単体でも売却を進める態度を表明しました。そして2003年エンジェルズ売却(買収価格1億8350万ドル)に至っていたのでした。

ディズニーがNHLにもたらしたもの。それは「飛べないアヒル」シリーズの映画だけではなかったはず。ダックス1年目などは、スコアボードにピーターパンやティンカーベルが飛び回り、そりゃ「魔法の国」的アプローチを全面に押し出していたのです。そしてスタンド通路には、パレード時のダンサーよろしく笑顔を絶やさないチアリーダーたちが待機していた。私個人としては「ま、こういうのもアリかな?」という割り切ることによって、好感も嫌悪感も抱かず至ってニュートラルに受け止めていたのです。当時はリーグ拡大によって新しいものが「雨後のタケノコ」状態だったので、特に大きな衝撃も感じませんでした。ただカナダ純粋培養で年季の入ったホッケーファンにとっては、この雰囲気は違和感大ありだったに違いないと察します。(もちろん「アリーナ内へのサイン持ち込み禁止」だけには、猛反発した私ではありました。それではもはや「魔法の国」ではなく「独裁者の国」ですわ)

ただ、その目新しさという魔法によって、ディズニーランド帰りのカナダ人一家などが面白がって見に行っているうちはまだよかった。最初5年間はソールドアウトが続き、マーチャンダイズ販売でもリーグ上位をキープしていたダックスは、NHLの賓客的位置付けを誇っていた。しかし一種の秘境的楽しさが失せた後、このかつて優良フランチャイズは、空席だらけの赤字チームに転落しまったのです。

LAタイムスの古参記者、ヘリーン・エリオットは「レーザーショウにチアリーダーという試合でのショウアップ方法は、カナダのチームでも取り入られ始めた。それにアイズナー氏が当初提唱していた『PS戦の導入』に至っては、当時こそ酷評されたが、現在NHLでは導入へと動いているではないか」と指摘しています。結局カナダのホッケー伝統主義者たちの反駁に勝てず、時代の先を行き過ぎてしまったのが、ディズニーの敗因だったのかも知れないと。「ビジネスでなく、純粋にホッケーをより面白いスポーツに進化させたい」という凌雲の志が果たしてアイズナー氏にあるのか? あるいは、PS戦導入を叫ぶ前にアイズナー氏はホッケーを知り尽くしているのか? という部分が、おそらくホッケー伝統主義者たちには引っ掛かっていたんでしょうね。

話はサムエリ氏の買収に戻りますが、個人的にはいい話だと思います。ロックアウトの恩恵でチーム買値が下がったのも、新オーナーにとっては朗報だったし、なによりアナハイムからチーム移転の危険性が当面は消えたわけですから。

それに桁外れではあるものの、大会社が手を引き、ホッケーというスポーツと恋に落ちた個人オーナーがチームを買うという現象。これも時代の輪廻でしょうか。10年間バブルに踊らされた後、徐々にNHLは平静を取り戻しつつあるのかな? と考えさせられるニュースのひとつでした。


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by hockeyworldjapan | 2005-02-28 13:19 | NHL overall