2005年 08月 07日 ( 1 )

セントルイス、プロンガーのトレードの背景とは?

いや〜、今夏のNHLFA市場は、予想通り未曾有の大々シャッフル大会となりましたね。

類型化すると、今のところこんな感じでしょうか?

その1:選手放出という苦渋の決断を強いられたチーム(コロラド、デトロイト、セントルイス、トロントなど)

その2:これまでの買い控えモードから一気にお買物モード(シカゴ、エドモントン、ピッツバーグ、ボストンなど)

その3:放出が必要だったけど資金力に任せて新陳代謝も活発なチーム(フィラデルフィア)

その4:スタートダッシュに乗り遅れてるチーム(ワシントンがダントツで出遅れ。ここまで7人と契約して700万ドルちょいしか使ってない)

その5:サラリーキャップ上限に関係なく我が道を行く。目指すはキャップ下限到達(ミネソタ)

その6:お買い物は豪華1点主義(アナハイム=スコット・ニーダーマイヤー、ナッシュビル=ポール・カリヤ。アトランタ=ボビー・ホリク。とはいっても、アナハイムはすでにキャップ上限に近づきつつあり)

その7:昨夏ですでにお腹いっぱい。今夏は物見遊山(フェニックス)

その8:RFA選手待ちで動けません(オタワ、タンパベイ)

・・・などなど、かなりチームごとに明暗分かれる展開となっております。

めぼしいUFA(制約なしFA)選手が動き、後はRFA(制約つきFA)選手の契約更改に、年俸調停申請へと、今後はニュースが推移していきそうなのですが、その前に気になったニュースを掘り起こしていこうかと思っております。

今日は、セントルイス・ブルースについて、取りあげてみます。

2005年6月17日、米・大手スーパーマーケットチェーン、ウォルマートの相続人として知られるビル&ナンシー・ローリー夫妻は、夫妻が所有するセントルイス・ブルースを今後売却するという方針を発表しました。1999年9月にブルースを買収以来、6年足らずの間に累積してしまったチーム赤字に音を上げたというのが、どうもその真相らしい。過去2年だけで6000万ドルの赤字を計上するなど、チーム経営はかなり傾いていたそうです。

赤字の原因は、元オーナーから引き継いだサビスセンター建設費用を拠出するための債券(チーム側が1億3500万ドル、セントルイス市が3500万ドルを拠出)を、ローリー夫妻がチーム買収時に一緒に背負い込んだこと。この債券を引き受けることでアリーナの実権を握った夫妻の狙いは、セントルイスへNBAチームを招致することだったのですが、これが失敗に。赤字だけがむなしく積もっていったのだとか。

ローリー夫妻は、ロックアウト中に「NHLのリーグ全体を買収する」と名乗り出たことで知られるゲームプラン社を、買い手候補探しのために起用。サラリーキャップが導入されて、将来的にオーナーにとっては経営が安定する見込みが立ち、実際には買い手市場であるはずのNHLチームなのですが、ブルースのチーム赤字&アリーナ債券という「双子の赤字構造」には、どうも逡巡しているというのが現状とか。1994年新アリーナ開設以来、チームとアリーナを合わせた赤字合計額は、2億2500万ドルにものぼるそうです。

チーム財政不振の理由には、ローリー夫妻の放漫経営や、セントルイスへのNBAチーム招致失敗もさることながら、地元自治体からの援助が得られなかったことが指摘されています。例えばブルースの試合のチケットには、州から課せられる販売税(7.6%)、市から課せられる興行税(5%)が含まれており、ローリー夫妻はこの軽減を求めていたが、認められなかった。この2種類の合計税率(12.6%)は、アメリカ国内のプロチームのチケットに課せられるものでは最大であり、このあたりも新オーナー招致に向けての足枷になりかねません。

しかし皮肉なことに、NFLラムズについては、チーム誘致のために州、市、郡の地方自治体からフットボールスタジアム建設、スタジアム維持費、練習場費などが拠出されている。またMLBカージナルスは来季新スタジアムをオープンするが、道路やインフラ整備に公的資金が注入されており、カージナルスに課せられるはずの5%遊興税も免除されるという優遇ぶりだそうです。

そんなブルースを、さらに厳しいニュースが襲います。2000年8月以来アリーナの名称権を有してきたIT関連会社のサビスが、その契約打ち切りを発表したのです。サビスとの契約は20年7200万ドルですが、違約金550万ドルを支払えばサビスは残りの契約を破棄できるんだそうです。アリーナには債券がついて、名称権がない。これでは、未来の買い手候補が渋る気持ちも分かります。

そんな中、これまで報じられている買い手候補としては、地元セントルイスでは、元ブルースオーナーの息子、マイク・シャナハンジュニア(現UHLミズーリ・リバーオターズのオーナー)。チーム移転も可能ということになれば、カンザスシティ(公的資金で現在アリーナ建設中)、ヒューストン、ウイニペグあたりの投資家がNHLチームを欲しがっているとの噂は、相変わらず根強くはあります。

また7月初旬には、トリニダードに本社を構えるカジノフォーチュン社(オンラインゲーム関連)が、セントルイス・ブルースの買収に名乗りを挙げたと報じられました。ドナルド・トランプ所有のカジノ株の取得や、NASAのスペースシャトルのシート購入を試みたこともあるというこの会社、過去にもNBAクリーブランド、フェニックスの買収を試みたようですが、「筋違い」とNBAデビッド・スターンコミッショナーにきっぱり却下されたそうです。プロスポーツの世界にとって賭博とは禁忌ものですからねえ。この会社の関係者は、数年前と比較するとオンラインゲームはかなりの事業規模に成長しており、会社の財政状況は以前ほどいぶかしくはないと主張しているそうです。ただやはり、ギャンブル関連の会社がチーム買収となると、賭博などのマイナスイメージに繋がることが容易に考えられるため、NHLがこの買収話に合意するとは考え難い。よって、あくまでもこの会社は、買収話が報道されることによってパブリシティを得ることが、そもそもの目的あったのではないかとまで囁かれています。

さらに、7月15日には、IT長者でNBAダラスのオーナーとしても知られるマーク・キューバン氏が、ブルース買収に関心を示していると地元紙「セントルイスビジネスジャーナル」が報道。その続報が出てこないところを見ると、しばらくは様子見ということなのか、はたまたキューバン流の単なるリップサービスなのでしょうか?

いずれにしても、チーム売却予定となると、ローリー夫妻はもうこれ以上赤字を抱えるのはご免と言わんばかりに、GMラリー・プローに緊縮財政を命じました。理想論から言えば、よりいい買い手を探すにはよりいいチーム造りが望まれるのですが、ここではそんな余裕はありません。チーム再建のためには、キース・カチャック、ダグ・ウエイトあたりの高額ベテラン(2人合わせて年俸1330万ドル)のバイアウトも可能性としてあったのですが、GMプローはバイアウトを許されず。カチャック、ウエイトはチーム残留としながらも、今季チーム年俸は3100〜3400万ドルに抑えろとのオーナーからの指示に基づき、UFAのパボル・デミトラ放出、さらにDクリス・プロンガーのエドモントンへのトレードに至ったわけです。

さて、プロンガーのトレードで、見返りに獲得したのが、Dエリック・ブリュワー。セントルイスでのプロンガーの滞氷時間の長さはよく知られていましたが、ブリュワーも2003−04年はDF部門リーグ10位(24分38秒)の平均滞氷時間を記録。プレーオフでは30分を超える時間に出場しており、PPではポイントマンもこなします。またこのトレードでは同時に、プリュワーの他に2名の若手DFも獲得しており、コストカットのトレードにしてはまずまずの釣果だといえるでしょう。

ただ、ブリュワーにプロンガー同様の働きを要求するのは、最初から酷な気もする。ブリュワーはエドモントンに在籍していたからこそ、その技量がむしろ過大評価されて2002年ソルトレーク五輪、2004年ワールドカップカナダ代表入りなどに繋がったのでは? という声もある。ある時期株が急上昇した後は、やや辛口批判の対象になった選手でもあり、巷でトレードの噂が頻出していたことは確か。なのでその実力のほどは、セントルイス移籍後に改めて問われると思います。

とはいえ、セントルイスでのマキニス&プロンガー時代が終焉し(マキニスとの契約延長の可能性はまだゼロではないようですが)、26歳のブリュワー(どっちか言えばオフェンス型DF)と、24歳のバレット・ジャックマン(こっちはディフェンシブなプレーが得意)が、ブルースのDFの顔となる日もそう遠くなさそうです。

プロンガーは移籍後、エドモントンと5年3125万ドル契約に合意しました。年俸にして約620万ドルは、ブルースのQO(制約つきFA交渉権保有ための提示:722万ドル)よりも少ない。しかし、このエドモントンと同レベルの契約をブルースが受け入れることは、現行キャップ内ではほぼ不可能でした。それに、プロンガーはあと1年でUFAとなる資格がある選手。今季はQOで契約したとしても、1年後にタダで失うくらいなら、見返りの取れる今トレードするしかなかったという事情もありましょう。

で、余談でしたが、こんなエピソードが地元紙「セントルイス・ポストディスパッチ」に掲載されていたので、ご紹介を。

8月2日深夜にエドモントンへトレードされたプロンガーですが、その翌朝セントルイス郊外のスターバックスで、なんとGMプローはプロンガーの妻ローレンさんと鉢合わせしてしまったそうです。ともすれば一触即発の間の悪さではありましたが、GMプローが「僕のことを憎んでるだろうね」と声を掛けると、ローレンさんが「いいえ、全然」と答えたことで「気分がとても楽になった。あの一瞬は絶対忘れることはないだろうね」と漏らすGMプロー。チームを牛耳るGM職とはいっても、時として中間管理職的哀愁や苦悩が漂ったりするのですよね。

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by hockeyworldjapan | 2005-08-07 16:41 | NHL overall