冬枯れの時代を、清貧に甘んじていたペンギンズ。
そのペンギンズにやっと訪れた春・・・でしょうか? そうだと信じたい! ピッツバーグ・ペンギンズの2003−04年は、30チーム中で最下位の30位という成績。チームワースト18連敗(うちNHL記録のホームでの14連敗)をどん底を味わいました。わずか2200万ドルというチーム総年俸は、リーグトップのデトロイト(7800万ドル)の3分の1以下というつつましさでした。言わずもがな、平均観客動員数は11877人と、地を這っていました。 この数字だけでいけば、どうみてもペンギンズはNHL30チーム中、負け組中の負け組。チーム資金難に、新アリーナ建設計画が暗礁に乗り上げ、ずぶずぶと負け組スパイラルに陥ってのいわば仮死状態でした。 しかし、そんな中でも、ペンギンズ首脳たちは、まだ見ぬ新CBA後のNHLを見据えて、こんな呪文を繰り返していました。 「1シーズン犠牲にしても、この冬を絶対乗り切る。新協定締結後はきっと有利になる」 当時、これを聞かされたペンギンズファンは、心からこれに賛同できたでしょうか? 新協定の内容が生温いものだったらどうしよう? 新アリーナ建設が頓挫したら、あとはチーム移転しかないのか? それよりマリオがチームを売り払って「いち抜けた!」状態になりゃしないか・・・などと、見通しの悪い不安に苛まれていたんではないでしょうか? が、そんなペンギンズに、ここに来て状況を打開してくれそうな新展開3連発が! これでいきなり「負け組中の負け組」から一気に「NHLきっての勝ち組」への道が開けてきたような・・・それが錯覚じゃないかどうか、ここでひとつづつ検証してみたいと思います。 まずは6月上旬。アメリカ西海岸を基盤とする投資家が、ペンギンズの大株主になることに興味を示したのです。 次に7月13日。NHLがNHLPAと大筋労使協定合意と発表しました。前協定に比べ、ペンギンズのような小市場チームにとってかなり魅力的な内容に、ピッツバーグ地元紙は「うまく行けば1年でスタンレーカップを目指せるかも」と、ちょっと気が早いけどあり得ないシナリオではない話を、得意げに書き立てました。 そして7月22日。2005年エントリードラフトの抽選で、見事全体1位指名権をゲット。2005年ドラフトの目玉といえば、誰もが全体1位指名と疑わないシドニー・クロズビーであります。 新オーナー、新CBA、そしてクロズビーと、ペンギンズにとっては近年まれに見る追い風三種が吹いて来たというわけで。まるでドラマか映画を見るかのような舞台装置の早変わりぶりです。 まあ、彼らのこれまでの苦悩を考えると、「ホントよかったね〜」と、素直に祝福したいのが本心であります。でもね、いちおう心配点なぞあげつらっておこうというのが、私のような人間のスタンス、っつーか悲しい性だったりする。 とゆーわけで、まずは7月30日ドラフトでペンギンズが間違いなく指名するであろうシドニー・クロズビーという選手について。 以前にもどこかで書いたかも知れませんが、「NHLの救世主」との声もあるが、そこまで期待してよいのか? という疑問が当然あります。 マリオ、レッキと攻撃力あるベテランがいるチームにドラフトされたのは、彼にとって朗報でしょう。おそらく1年目は、マーク・アンドレ・フルーリーよろしく、たぶんマリオ宅に下宿でしょうか? クロズビーにとっては、NHLでの機微をいろいろ教わる絶好の機会となり得ます。 昨季はQMJHLにて62試合出場で168ポイント。1試合平均2.71という数字は、メジャージュニア史上マリオ(4.03)に次ぐ好成績だそうです。そんなポイント製造機であるクロズビーにとって、よりオフェンシブなホッケーを目指した今季のNHLルール改正も、有利に働くとも言われています。 7歳で最初の新聞インタビューに応じ、14歳でカナダ全国放送で報道され、15歳でスポーツマーケティングでは超有名会社のIMGと契約。そんな天才児には、NHL加入前ながら、リーボック、ゲータレードに、カナダの電話会社と、すでに複数のスポンサーが。うちリーボックとの契約が5年250万ドルと最大。さらに10社が契約を求めて接触中なんだそうで、すでに彼の個人サイト(www.crosby87.com)もオープンという凄まじさです。 私個人としては、NHLでまだ1試合もプレーしていない選手にここまで騒ぐというのもどうよ? という気持ちが正直あります。 「ネクストワン」と期待されたエリック・リンドロスの場合は、NHL加入前に91年カナダカップでカナダ代表としてプレーし、NHL入り後のプレーも多少は予想がついた。でもクロズビーについては、そういったトップレベルの選手と一緒にプレーする機会はこれまで皆無。またマリオやリンドロスといった選手と比べると、サイズ面では絶対劣るというハンデがある(お尻の大きさはチャンピオン級ですが)。それだけにいきなりNHLの世界に放り込まれたらどうよ? と、ついつい訝し気な態度に出てしまうのです。 実際、私自身、昨年7月のLAのルーキーキャンプに特別参加していたクロズビーを、生で観る機会がありました。「確かに16歳としてはすごい。スケーティング、テクニックはあるけど、プレーを支配するタイプではない」というのが私の印象でした。 とはいえ、一緒にプレーする周りの選手のレベルが上がれば上がるほど、素晴らしいプレーを引き出せる力をもった選手というのは、いるものです。実際、真の天才とは、そういうところで恐るべき力を発揮するんだと、2004年ワールドカップのビンセント・ルカバリエのプレーを観て、思い知った次第です。 なので、クロズビーもそういうタイプなのかも知れません。できればそうあって欲しいと願うわけなのですが・・・ で、そのクロズビーと取り巻くペンギンズの環境としては、まずは2004年1巡目指名(全体2位)のエフゲニ・マルキンが、同じ代理人(IMGパット・ブリッソン)が担当しているんだそう。だからといって、契約交渉が早く進むのか、逆に時間がかかるのかは分からない。というのは、「新協定でのルーキーサラリーキャップが以前よりかなり厳しくなる」という報道直後に、「クロズビーはスイスのチームと交渉中。3年1000万ドルのオファーあり」と、この代理人がチクリと刺した。つまり「NHLがルーキーの処遇を悪くするならヨーロッパに行っちゃうよ!」と、NHLに揺さぶりをかけたのです。結局この話題は、その後クロズビー本人が「僕はなによりNHLでプレーするのを優先する。代理人は、ロックアウトがこのまま続いてしまった際の選択肢として、ヨーロッパの話をしただけ」と弁解して事なきを得ましたが、この代理人陣営、かなりの胡散臭さがあることは確かのようです。 なにはともあれ、この2人が揃ってペンギンズでプレーすることになれば、それはとっても楽しみではある。ちなみにポジションは2人ともセンター。マルキンとの交渉は、NHLとIIHF間の移籍に関する協定が最終決定待ち(これまでロシア連盟がゴネてました)という状態らしい。そもそもプレーメイクのできるセンターが必要だったペンギンズだけに、マーケティング的部分だけではなく、チーム構想的にもかなりのインパクトとなるのでは、と期待されています。 ただ「NHLの救世主」というのは、やはりどうよ? と思うのです。 仮に、クロズビーがグレツキー&マリオの域に達するプレーを見せたとします。 でも、今季からNHLでは、異なるカンファレンスのフランチャイズを訪れるのは、3年に1度のみ。すると、全リーグ的影響はそれほどでもないんではないか? という気もする。まあ、TV報道はいつも東偏重で、西はないがしろにされ気味なのは、今や公然たる事実でありますけどね。 ここで話題を変えて、ペンギンズの新大株主となる予定の方のご紹介を少し。 カリフォルニア州サンノゼ出身の事業家であるウイリアム・デルビアッジオ氏(37)がその人で、マリオとはゴルフ友達という仲。またこれまでマリオとともに、USホッケーリーグのオマハ・ランサーズを有し、またサンノゼのトップファームであるAHLクリーブランド株も一部保有している、いわばホッケー筋のお金持ちセレブらしい。またシャークスの株式も一部所有らしく、ペンギンズのオーナーとして承認されれば、シャークス株は手放すことになる。デルビアッジオ氏が晴れて大株主となった後も、マリオは5%のペンギンズの株式を有し、チーム代表取締役に留まる予定だそうです。 で、このデルビアッジオ氏のチーム買収と、クロズビーのドラフト指名が、新アリーナ建設計画へ弾みになるのでは? との説がありますが、実際にこの「新アリーナ建設計画」の実情について、ちょっと説明したいと思います。 老朽化が進むペンギンズの本拠地メロンアリーナ。現存するNHLアリーナでは最古で最小の収容人員という事情もあって、マリオは「ペンギンズのチーム財政健全化には、新アリーナ建設は必要条件」と、近年訴え続けてきました。 しかし、このマリオの訴えも虚しく、地元自治体はペンギンズにはそっぽを向いたまま。しかも、野球とフットボールのスタジアムにはちゃっかり資金拠出しまくったのですから、そりゃマリオも怒ります。2001年、ペンギンズは市内の病院跡地を新アリーナ建設地として800万ドルで購入していたのですか、ノリの悪い地元自治体ゆえにアリーナ建設計画はいったん無に帰しました。そこで、この土地を1500万ドルで売却を試みたのですが、買い手はつかず。窮地で辿り着いた次なるアイデアは、スロット営業権を得て、その土地にカジノを建設し、そのカジノの収益を新アリーナ建設費に充てるというちょっと気の遠くなるような話であります。 で、現段階では、まだそのカジノ営業権も入手できていない状態。ただ、デルビアッジオ氏のチーム買収や、クロズビーのドラフト指名というニュースが、このスロット営業権を決定する地元政治家たちに好印象を与えることは確かだというところに留まっています。 「あちらの世界」への道、まだまだ長そうです。 また、新協定は諸刃の剣とも言われています。そのひとつがFA制度であります。新アリーナ完成時には、クロズビーが制約なしFAになっちゃう(新協定では、最速で7年後に制約なしFAになれるのです)なんてオチがつかなければいいが・・・と、重箱の隅をつついてみる。そんな意味でも、ペンギンズファンの懊悩は、心の底でまだ続いているのではないでしょうか? ご感想はHWJ掲示板まで
by hockeyworldjapan
| 2005-07-26 15:28
| NHL overall
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