先日はWBC日本vsアメリカで微妙な判定というのがありましたが、まさにアジアリーグ・プレーオフセミファイナル第4戦ハルラvsコクドも、残念ながらそうした微妙な判定に左右される内容となってしまいました。
私としては、本当に口惜しくて仕方ない。というのもこの試合、途中まで内容にぐぐっと引き込まれて身体が思わず前のめりになるような、スリリングで素晴らしい展開だったのです。 ここまで、コクドの2勝1敗。もう負けられないハルラは、出足からアグレッシブに展開します。コクドも負けじと応戦し、序盤からエンドトゥエンドの非常に速い試合の動きが楽しめました。 実は今季、あまりハルラのホッケーをじっくり観る機会に恵まれなかった私ですが、この日の彼らは本当に素晴らしいプレーを見せておりました。ハルラのPPは、オタカー・ウ゛ェイウ゛ォダコーチのクラドノ方式とでもいうのでしょうか、チェコ人選手を中心に日本チームにないタイプのプレーを見せてくれるので、私は序盤からもう興奮しっぱなしでありました。自陣で味方DFがパックを持ってリグループしてる時に、すでにファーサイドにおいてひとりストレッチしている選手が、相手陣内ブルーライン上で必ずロングパスを待ち受けてたり。はたまた、アンブレラ陣形で、巨漢DFネドウ゛ェドが強烈スラップショットをズドーン、ズドーンと放ったり・・・。チェコ人選手だけではありません。いつの間にか、韓国人選手たちもチェコ人選手のスキルとパワーに引っ張られるような形で、個々の力をぐんぐん伸ばして来てるのが明らかでした。 その後のPKもすごかったです。コクドは5オン3の絶好のチャンスを1分以上貰っていたのですが、その間に一度もハルラGKキム・ソンベまで届くシュートを放つことができませんでした。というのも、ハルラの選手がみな身を挺して、どんどんシュートブロックに飛び交っていたからなのです。あれだけ必死の守りは、日本リーグ、アジアリーグを通してウン十年観ている私でも、そうお目にかかれる代物ではありません。 逆にコクドがSHとなった際に、カウンターで2オン0の絶好のチャンスを迎えた時も、パーピックから鈴木貴人とゴール前でパスが渡ったのにもかかわらず、GKキム・ソンベが体勢を崩しながらスティックで、鈴木が浮かせたパックをクリアしたのには、思わず息を飲みました。また、コクド#33パーピック、ハルラ#55ネドウ゛ェドの巨漢同士のマッチアップには、東伏見のファンから大きなどよめきが聞かれてもいました。 第1ピリオドは0−1とリードされて終わったハルラですが、第2ピリオド序盤は流れをつかんで、いい攻撃を展開していました。コクドはプレーオフでは例年通り、スロットエリアの守りをぎっちり固めてきているのですが、それでもハルラは何度も分厚い攻めでコクドGK菊地を責め立てました。しかし、この日の菊地はスーパーと言っていい出来でした。何度もハルラの決定的なチャンスを止めまくったのです。 そして、コクドは神野のゴールで追加点。コーナーの宮内からフィードされたパックを、神野はハルラGKキム・ソンベのグラブサイド上を狙いすまして決めていました。コクドのシューターたちは、かなりこのキム・ソンベのグラブサイド上をウイークポイントとして狙っていたようでした。 2−0として、いったんはコクドが試合の流れを掌握したかにみえた第2ピリオド後半。コクドはペナルティ続きでSHという場面で、ハルラはまたまた分厚い攻めを展開。ここでいったんゴールを決めたかに思われた。ハルラの選手たちはゴールが決まったと認識し、両手を掲げて喜ぶ仕草を見せたが、ゴールランプはつかないし、レフェリーもゴールのシグナルを見せず。試合はそのまま続行され、ルースパックを拾ったコクドは一気に2オン0の形でカウンターアタック。最後は今洋祐が決めて、試合は一気に3−0と開いてしまいました。 ここで、猛然と抗議に出たハルラベンチ。ハルラ側の主張としては、ゴールネットに穴が空いており、そこからパックがゴールの外に抜けてしまったとのこと。しかしゴールジャッジもレフェリーも、ノーゴールを宣告しているという理由で、この判定は覆されることはなかった。その後は試合再開となったが、ハルラ側は選手たちを氷上に送り込まずに、「まずはゴールネットの穴を確認して欲しい」と訴えた。しかし外国人レフェリーとの意志疎通の問題もあってか、このハルラ側の行為は試合遅延と見なされ、ハルラは2回のマイナーペナルティを課されてしまいました。 その後、この試合の清野勝スーパーバイザーが氷上に降り立ち、まずはハルラベンチに状況を説明。そして「このままでは、放棄試合になってしまう」との旨を通告したそうです。その後、コクド側のゴールネットの穴を確認。そしてオフィシャル席に戻り、清野氏は「いったん製氷して、試合が止まった第2ピリオド19分4秒から再開する」との決定を下したのです。 製氷機がリンクを走る間に、オフィシャル陣は憤然としているハルラ陣営に説明を続けていました。これには日本アイスホッケー連盟会長富田正一氏までが説明に乗り出す姿も目撃されていました。最悪、この判定を不服として、自ら試合を放棄するという選択肢もハルラには残されてはいましたが、製氷が終わった後にハルラ選手たちがリンクに現れた時には、東伏見のファンからは大きな声援が飛んでいました。 しかし、ハルラにとっては、抗議の際に課されてしまった試合遅延のペナルティ2つは重かった。結局このマイナーペナルティ2つで1回ずつ失点を許してしまい、スコアは5−0に。これで試合の行方は決まってしまいました。 にもかかわらず、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けるハルラの動きには、これまた心を揺さぶられるものがありました。しかし再三のハルラのチャンスに対しても、コクドGK菊地は、読みも動きも冴えまくっていました。この菊地の守りがなければ、こうした試合展開であっても、この日のスコアはかなり競り合いだったかも・・・と思うほど、菊地は冴えていたのです。 ですが、最後の最後でその菊地が守る砦を、ソン・ドンファンがこじ開けました。コクドDFにびっちりマークされながらも、そのDFを道連れにするかのように力を振り絞ってのゴール。今季以降は、兵役で向こう2年間チームを離れることが決まっているソン・ドンファンだけに、その思いのたけを預けるようなゴールでした。ハルラには、他にキム・キョンテとチャン・ジョンムンの2人が兵役でチームを離れることになるそうですが、ソン・ドンファンの場合は実戦演習ではなく、ほぼ公務員のような形でのオフィスワークとなるため、たまのホッケー練習は可能でもアスリートとしてトレーニングを継続していくことは不可能に近い、と言われているそうです。 結局試合は5−1でコクドが勝利。コクドはプレーオフファイナルへと駒を進めました。 それにしても、なんと後味の悪い試合でしょうか。試合後、清野氏は中断時の一連の動きを報道陣に説明した後、こう語りました。 「こういう時のために、ビデオジャッジがあれば・・・と思いますよ。しかし経費の都合上、なかなかそういうわけにもいきませんでした。ただ来季からはこうした事態も考慮して、プレーオフだけでもビデオジャッジの導入を検討したい」 また清野氏自身が確認したゴールネットの穴(2カ所空いていたという説もあり)については、「実際に穴は空いていました。各ピリオドの頭には、必ずラインズマンがゴールネットに穴はないかチェックをしていますが、ゴールネットは選手のスケートやスティックで破けることがあります。ネットが切れていたことは事実ですが、ゴールジャッジにレフェリーがちゃんと確認をしてゴールを宣告したからには、ゴールは認められることになります」と説明していました。 もちろん、ビデオリプレイが利用できれば、それに越したことはありません。ただ一見万能に思えるビデオリプレイも、プレー内容と撮影角度によっては判断できない状況もあることも事実です。NHLの場合でも、ビデオジャッジに持ち込まれたけれど、結局ゴールなのかノーゴールなのか判定不可能とされて、その結果ノーゴールとされているゴールもあるということだけ、付け加えておきましょう。 ゴールラインを割ったか否かは、基本的にはゴール真上のカメラの映像による判定になるのですが、ゴールラインを割る瞬間に選手の身体がパックに覆いかぶさってきた場合は、その判定は難しくなります。またNHLでは、シュートがハイスティックによって決まったのか、あるいは選手のキックモーションによって決まったのか、というところまでビデオ判定に持ち込まれるのですが、それだけの設備を整えるとなると、かなりの経費が必要になります。NHLの場合、場内数十カ所のカメラポジションがあるからこそ、そうしたジャッジが可能になるのですが、これをアジアリーグで再現しようとすると、かなりの妥協案による実施となることは否めません。そこだけは、留意しておくべきだと思います。 で、結局何が言いたかったかと言うと、ハルラのホッケーがここまで進化を遂げたのには敬服したいということ。今回のジャッジの一件については、ハルラにとっては不運としか言いようがない(コクドにも「あれはゴールだった」と発言している選手たちがいました)のですし、ゴールネットの穴の確認や、会場のファンへの説明も含め、今後の対応策が不可欠ということ。さらに、この一件が注目を浴びすぎてしまうことで、ハルラの素晴らしいホッケーがその影に隠れてしまわないように、の3点でした。 長い試合で疲れ気味のため、乱文お許しください。(バタッ)
by hockeyworldjapan
| 2006-03-15 01:53
| アジアリーグ
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